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ハノイのはちへお。

from Hanoi, Vietnam

Tam biet Thuong Xa TAX!

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これが何かわかる方はいらっしゃるでしょうか。ハノイには全く関係ないのですが、今日この日に、その歴史に幕を閉じるある建物の、階段の踊り場の床のタイル絵です。

 

ホーチミン市のTAXデパート(かつては国営百貨店と呼んだけど、今はどうなんだろう?)、Thương Xá TAXが、今日、2014年9月25日をもって営業を停止します。建物は取り壊して、後には高層ビルだかショッピングセンターだかができるんだとか。

「旅人はないものねだりをする、その土地に昔のままの姿を求めるのはすなわち、土地の人に30年前、50年前のままの不便を強制することなのだ。自らは便利な生活の中に身を置いているというのに」と書いたのは向田邦子ですが、しかしそれは女史も書き添えている通り、理性や何かでは制御不能な、旅人の本能です。誰かは知らないが、誰かの求めるホーチミン(すでにもう、それは名実ともに『サイゴン』ではないのだと思う)という街に近付いている現在の彼の街に、それでも昔の姿を残しておいてほしいと思うのは、そこに思い出があるからです。そう、私は寂しい。私だけじゃなく、多くの人が寂しい。

私は特にホーチミン、あるいはサイゴンという街に強い思い入れがあるわけではないですが、しかしベトナムの中で最初に足を踏み入れたのは紛れもなくホーチミンでしたし、TAXデパートにだってホーチミンへ行くたびにほぼ毎日訪れ、今までにいくつかのお土産と、何十という水を買い、おそらく200か300万ドンはお金を落としてきたのです(あれ、少ない?)。あの場所は観光客が涼んだり、水分補給をするにはとてもいい場所でした。一人でも行ったし、友人や母と一緒に何度も入りました。

1階は宝石と化粧品、 2階より上はスーパーと衣料品とお土産物という、市場を小奇麗にしてスーパーをくっつけただけのような、ちょっと古いデパートによくあるフロア構成もよかった。ベトナムらしさを感じさせるものでした。古きチャンティエン・プラザを失ったハノイには、もうこんなのないからなあ。

 

 よく見れば建物の造作も美しい。建物の中央にある、ゆるやかなカーブを描いた階段と、タイル画で彩られた踊り場。ベージュ、ブルー、アイボリーのタイルの組み合わせは落ち着きがあって、いかにも欧風。階段手すりのアイアンワークや、吹き抜け部分で見ることのできた、各階の床の当たりに施されたバラ柄のラインもきれいでした。ここら辺は、この建物ができた1880年当時から変わらないものなんだそうです。

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それももうすぐなくなってしまうのね。

 

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 ハノイ在住の身からすれば、一体これ以上何を求めるのかとも思いますが、きっと目指すのはシンガポールだったりするんでしょうねえ。一度大きく飛躍したこの街は、次なるステージに向けて、衣替え中。あちらこちらで地下鉄工事が始まって、ホーチミンの夜は妙に荒涼とした雰囲気を纏っていました。ここは、人の欲望の底なのかもしれない。